
【概要】
「四條瑠璃」は本土から離れた島にある「藤壺学園」に通う為
かつてお世話になっていた「遊行寺家」の個人図書館に居候させてもらう事になる
その個人図書館では珍しい本が沢山蔵書される、読書家には夢のような場所であるが
ただの図書館というわけではなく、厳重に保管されている不思議な本が存在していた
「本の内容が現実に再現されてしまう」という、曰く「魔法の本」と呼ばれる存在
人の恋心や死すらも軽々しく扱う存在である、本来関わるべきでない存在であるが
運命のいたずらか、次々と瑠璃たちの周りで本が開き、事件を発生させていくことになる
魔法の本に翻弄される瑠璃や図書館の住人達の物語の先に待つものはなんであろうか?
と、本が起こす事件を通して翻弄され変化していく人間関係を描いたラブストーリーです?
【システム】
・画面は16:9
・ヒロイン別音声設定あり
【仕様とか】
ヒロインは4人、EDは5つ存在し、大層な演出はなくあっさりと幕を閉じます
一本道のシナリオに、枝分かれした短めの結末があるタイプです
シナリオの分岐点でわかりやすく2択を迫られるので迷うことは無いかと
それぞれヒロインとの物語の結末を描きますが、ハッピーかは意見が分かれそう
少なくとも表面上は、一部の結末を除いてしこりを残したBADのように描いてます
個別のヒロインねらいとするならメインとなる厳しいヒロインが存在します
【雑感】
本を題材にして、それに倣う意味もあったのか、基本的には一本道のシナリオです
途中で選択肢によって、ヒロインごとに分岐していき、13話の1クール構成
一本道のシナリオとして、メインとなるヒロインが決まってしまっているために
一部のヒロインが気に入っているからと手を出すと物足りない内容かもしれません
シナリオとしてはしっかりと伏線を張り回収していくタイプとなっていますので
雰囲気や体験版の展開に強く惹かれたなら、楽しめる内容になっていると思います
しかし、ミステリーとしての要素を期待し過ぎると少し厳しい内容かもしれません
また、完全無欠のハッピーエンドではないので、暗い展開が苦手な人は注意が必要です
ヒロインが可愛いからという動機だけで手を出すと結構辛い作品になるかもしれません
以下、ネタバレを容赦なく含む感想です
【ヒロイン】
■遊行寺夜子
4章以降の瑠璃にとってのヒロインがかなたであるが、物語のヒロインは間違いなく夜子でしょう
夜子は魔法の本の事件については部外者であって、しかし加害者となっているポジション
どちらかといえば、夜子に配慮しすぎる母の闇子と呼応してしまうクリンベリルが問題であり
夜子自身は引きこもりの、さらに言えば闇子が俗に語ったように「ツンデレ」に過ぎず
物語の舞台に最後の最後になるまであがることすら出来なかった臆病者に過ぎないわけです
そんな状態ながらも、周囲に大きな影響を及ぼしてしまったのは夜子の業の深さでしょうか
しかし、本当に物語の舞台に立ててないわけで、他のヒロインと同じく、瑠璃との絆は弱く
一応、BAD END行きヒロイン3人の中では、比較的穏やかな終わり方ではあるものの
最後までその選択でいいのか?とケチをつけられる散々な役割となっているのが悲惨です
あくまで、本編は夜子にとって一歩踏み出すまでのお話に過ぎないという感じでしょうか
尤も、そこに至るまでに払った犠牲は、現実かなり悲惨な状況だったりするわけですけど……
■伏見理央
分岐が最初というだけあって、最も扱いが酷く救いのないヒロインとなっていた印象です
メタ的な視点で見れば、ヒロインらしいヒロインの魅せ場がなかった夜子と良い勝負ですね
遊行寺にとってどこまで都合の良い登場人物である理央はシナリオ的にも非常に都合が良く
殆どの真実を知っていながらも、命令ゆえに話せないの一言で全てを隠してしまえる
シナリオのよい調整役として始終動いていた、何から何まで都合の良い進行役でした
舞台に立たなかった夜子に対して、立つことを許されなかった理央という感じでしょうか
重大なことは言及できないけれども、最後まで笑顔で皆を支える理央の裏にある想いは
例え必死の思いで裏技を使いルールを破ったとしても幸福な結末を得ることは出来ません
現に、個別EDは表面上、或いは本人達は満足していた他と違いあっけなく幕切れます
それでも決して叶わない理央の想いが一時的にでも救われたことは由とするべきでしょうか
と悲劇性に目が行くヒロインですが、同時に悲劇性にばかりスポットが当たってしまい
理央と瑠璃との関係が碌に描かれることなく結ばれてしまったことは多少気になります
基本的に、魔法の本の影響というのがあるのですけど、設定が先行している印象です
ただ、全体的に迂闊な動機が多い魔法の本を開く理由で唯一納得したのは理央でした
恋の動機についてはもう少し色々語ってほしいですが、動く理由としては納得しました
■月社妃
最初から瑠璃と相思相愛にあり、冷静な態度で、魔法の本で起きた現象にも対応してしまう
そんな無敵にも近い存在が、最初から最後まで君臨できるかというとそういうわけはなく
尤も、物語として隠す気もまったくなく、フラグをコレでもかと立てて退場するワケですが
本作の物語の始まりでありながら、瑠璃の物語にとってのあっけない終わりでもあります
個別ルートでは現実の2人のように、個別で紙の上の存在となった2人が再びという結末は
後の情報からわかるわけですが、禁じられた恋に身をおくが故の行動なのでしょうかね
どちらの死も、表情は清清しく、壮絶な幕引きながら、救われているようにも見えてしまいます
物語の悪役として動き続けるクリソベリルを二度も敗北させた様は見事というべきでしょうか
尤も、この辺りになってくるとクリソベリルの威厳も器もかなりアレな感じなのですけどね
しかし、そんな強者である妃だからこそ、みだりに魔法の本を開いてしまったのが気になります
死の物語でなくとも、浮気をする結末を知り身投げするほど、シビアな感性を持つ人間が
何をさせられるかわからない魔法の本を開くというのはどうにも理解できない部分ではあります
瑠璃にも何も言わず死んでしまった、妃はシナリオ前半の最大の謎みたいに語られるのですが
それは本当にクリソベリルの情報なしに解るはずもない事情で、知っていても理解の難しい
衝動的な行動であるように見えます、謎以前に解るはずもない妃ならではの行動原理です
その結論にに至る伏線があるかというとそうでもないため、3話から散々じらしたものの
現実は、本が説明と違っていた、そしてそれが妃の理念にとって許せないものだったからと
プレイヤーの想像では決して補えない、未知の情報で話を引っ張られたのはも解せません
仮に先に妃がそれをするだけの危うい性格であること(これは想像できなくもないのですが)
そして、本にはこういった内容があるという前提説明があって初めてこの辺りの引きが
生きてくると思うのですが、この辺りが完全に省かれているので、反応に困るのですよね
おそらく、この本が違うネタ自体はかなたの設定ありきな部分があると思うのですけども
そう考えると妃がさらに、シナリオの舞台装置的な意味合いが増えてきてなんとも……
ヒロインとしては表向き上、瑠璃の想い人という関係上過去のエピソードが多く
故に、一番思い入れのしやすい、すんなりと入ってくるヒロインであるかなと思います
とはいっても、それは3話を越えて後なので、どうにも後手後手な感じはあるのですが
■日向かなた
瑠璃にとってのヒロインであり、この物語にとっての主人公というべき存在でしょうか
かなたにふりかかった魔法の本の効果が全体的にイージーモードどころか助けになっているも
魔法の本に正面から打ち勝った強い女性であるのは確かで、愛の深さを見せてくれます
瑠璃の恋愛物語としてもゆがんでいたものの基本はかなたが中心となっていることもあり
かなたを好きになれるか否かが、この物語の終盤をすんなり受け入れられるかの分け目です
実際、全体的に唐突か、直前でフラグを立てまくる他のヒロインたちと違って
最初から最後まで、瑠璃と関わり助けとなってきたのは、かなたであり妃亡き後は顕著です
それゆえに、シナリオを素直に受け入れればヒロインはかなたというのに異存はないですが
エロゲーのプレイヤーとしてすんなり受け入れられるかについては分かれるところでしょう
特に他のヒロインの扱いが軽いというよりも、酷いになっている以上は気になる部分です
しかし、最後の最後で今回の悲劇のトリガーとなった告白したヒロインについて
たしかに、謎を解き明かすには必要ですが、存在としてはあまりに唐突な気もしますね
本当の始まりはアレでもないこれでもないと隠し続けたせいか、ことの発端たる出来事が
いきなり外部から与えられた情報でありすぎて、どうにも、聞いた話しを越えませんでした
長きにワタル想いを持って告白されても、仄めかしもなかったので、こちらには唐突です
魔法の本によるトリックやシナリオを優先しているが故の仕方のない部分でしょうか
■クリソベリル
良くも悪くも彼女が早く、そして迂闊に動きすぎたのは個人的にマイナス点でした
もう少し謎めいた存在であるか、狂言回し的な読めない存在であれば不気味さもあって
この話をもう少し底知れない謎に満ちた何かしてくれたような気もするのですけど
饒舌すぎる紙の上の魔女の存在は、どうにも全体を軽くしてしまった印象です
そして、そんな彼女の挑発を受けてしまうキャラクター達も軽く感じてしまいました
彼女の根源や行動を考えれば大悪党というわけでもないので、コレぐらい小物である
というのもある程度納得できるのですが、もう少し不明な存在であってほしかったですね
あと、クリソベリルを許す展開はあってもいいですけど、それだと他3人の扱いがなぁと
他は結ばれることで、悲劇に収束しているわけで、彼女のみ特例で許されるはなんとも
その辺りのバランス感覚がどうにも微妙な感じで、最後の妙なゆるさが気になりました
【Hシーン】
日向かなた:3
遊行寺夜子:3
月社妃:3
伏見理央:3
クリソベリル:1
基本、薄味になっていますが、一応ヒロイン格には3シーンずつ用意されています
そのうち1シーンは大抵驚くほど短い奉仕シーンとなっており、逆に薄さを実感します
一応、それ以外前戯→本番シーンという流れは押さえているので、最低限はありますが
そもそも、ヒロインとの濃いHシーンを求める人はいないよねという結論に至ります
しかし、クリソベリルのシーンがフォローされていることに少し驚きを覚えましたね
【まとめ】
OHPの内容がある程度、引っ掛けるような表現をしていますが、結構癖のある作品です
なんともひねくれた展開で可愛らしい見た目のヒロインよりシナリオを優先している
意欲作といえば意欲作なのでしょうか、シナリオが書かれ、後にヒロインが配置された
という感じで、ヒロインとの恋愛ストーリーを強く求めるならお勧めしにくいです
主人公、ヒロインを含めてキャラクターがシナリオの都合で動かされている印象です
それ自体がシナリオの主旨なのですが、魔法の本以前の視点でそう感じることが多々
その辺り、キャラクターに共感するのが難しく、特に魔法の本を開いてしまうことは
ある程度理由付けはされているものの、どうしても突っ込みたくなる部分がありました
話的に見れば魔法の本に踊らされる喜劇とも取れる悲劇の連鎖であり
かなたの恋愛物語であり、夜子の成長物語でもあり、クリンベリルの物語でもある
その先に書かれた物語の結末はまるで幸福のように語られているけれでも
実際に敷かれた犠牲は大きく、しかし、そこは最後になると殆ど言及されません
その辺りのいびつさを受け入れつつもというお話ではあるのでしょうが
そこが合うか合わないかは結構好みが分かれそうなところではないかなと思います
少なくとも瑠璃の物語としては、妃の退場とともにあっさりと幕を閉じたわけで
瑠璃という主人公とヒロインたちの恋愛物語を期待していると厳しい結末かなと
挑戦的な内容であったのは確かだと思います、それゆえに人を選ぶものかなと
個人的には、もう少しキャラに入り込めればというのが物足りないところでした
どちらかというとキャラに入れ込んで物語に没頭していくというよりも
物語を読むように、登場人物の行動を追って物語を進めていくタイプでしょうか
その辺、あまり登場人物に感情移入しないほうが楽しめる作品かもしれません


